■天にも昇る氣分
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斎管 母の云いつけ通り 心を尽くしもてなす 朝には狩りに出し 夕刻 狩りの帰りがてらに 皆が近寄りがたい斎管御所に 男だけ寄らせ 手厚くねぎらつた
馴初{なれそ}め 【馴初め】→恋愛関係に入る 時間の問題 二日目であつた 二日目の夜であつた 男 「逢ひたい(密会したい)」 驚天動地{きょうてんどうち}のひと言 女(斎管) 顔色も変へず 拒む様子もない
男 部屋に戻る 「来るだらうか」 男 胸高鳴り氣が氣でない
男 <使ひ>の主役であつたので 宿も斎管御所の寮からさほど遠くない外院 斎管の寝間からも近かつた
外の方に身を乗り出して横たわつてゐると 月もおぼろな光のなかに 幼げな童を先に立たせ 誰かが立つてゐる 斎管 人を寝静まらせてから 子{ね}一つ(午後十一時ごろ) 男のもとに来たのであつた
男 天にも昇る氣分 嬉しさのあまり 男 女を抱きかかへ 自分の寝床に連れ込んだ
子一つから丑{うし}三つ(午前二時ごろ}まで 逢瀬 またたく間に過ぎた まだ互いの胸中を話しきれないうちに 女 斎管御所の寮に帰つてしまつた
さて この逢瀬 ヤッタか ヤラなかつたか
ヤッタか ヤラなかつたか それは 翌朝の女からの手紙にあつた
天にも昇る氣分 とは ひとの一生で何回ぐらいあるものであらう 中學三年のとき 歩いていても 足が地についてゐない 空中を歩いているようだつた
残りの人生 もう一度 あつてほしいものだ ないか
2023/04/27(木)  |
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